タイトルからは想像できないコメディー映画【帰ってきたヒトラー】








はじめて存在を知ったときからとても気になっていました。原作はドイツで2012年にベストセラーになった小説で、その刺激的なタイトルや本の装丁など当時からすでに大変な話題作となっていました。

しかし、なかなか本を手に取る機会がなくまた2015年に映画化した際も、映画館になかなか足を運べずに結局見逃してしまいました。

最近Amazon プライムで配信されていることに気がつき、すぐに視聴しました。期待していた以上の映画で、すぐに原作小説にも手を出してしまいました。

タイトルは堅いが実はコメディー映画です。

この作品は「帰ってきたヒトラー」というタイトルの通り、アドルフ・ヒトラーがタイムトラベルして現代に現われるという「それってちょっと大丈夫なの?」と思ってしまうような作品です。

タイトルがタイトルですから「ひょっとしてお堅い映画かな……」「戦争を題材にした映画なのかな?」と思われる方も多いのではないでしょうか。

ですが、安心してください。この映画はコメディー映画なんです。

はるばる1945年から2014年にやってきた総統閣下ことアドルフ・ヒトラーですが、冒頭ではいきなり子供たちに変なオジサン扱いされてしまいます。

道を歩けばヒトラーのモノマネをしている大道芸人扱い。誰も総統閣下なんて呼んでくれません。

しまいには街をさまよい歩いた挙げ句、キオスクの前で気絶してしまいます。店主に介抱されたヒトラーは……キオスクで住み込みのバイトを始めます。もう一度書きましょう。キオスクでバイトを始めます。

仕方がありません。もはや彼は“総統閣下”ではないのです。働かなければ生きてはいけません。

店主に命令されて商品の品出しなんかも頑張ってこなします。そこはかとなく悲しい姿です……。

が、このままでは終わらないのがヒトラーです。

幸いにしてキオスクにはたくさんの新聞や雑誌がありました。

ヒトラーはそれらを入念に読み込み、次第に自身の置かれた状況や2014年の世界を実情を把握していきます。もちろん、現代ドイツを悩ます数々の政治問題や社会問題についても……。

おり良く、「芸人ヒトラー」の噂を聞きつけたテレビ局の社員が、番組出演の交渉のためキオスクにやってきます。

 

こうして彼、アドルフ・ヒトラーは再びドイツ国民の前に姿を表す機会を得たのです。

もちろん、芸人として、ですが。

 

というように物語は進んで行くのですが、たとえ芸人扱いされたとしてもヒトラーは始終一貫して本物として本気で行動しているため、その言動と周囲の人間の噛み合わなさが常に絶妙な笑いを呼びます。

映画を視る前は「笑っていいのだろうか…」なんて思っていたのに、いつのまにかそんなことは忘れてゲラゲラ笑っていました。

そういう映画なんです。

またそれと同時に現代の諸問題に鋭く切り込むようなヒトラーの言動にはスカッとさせられたりもします。

そして思ってしまうのです。

「あれ、この人の言ってることって正しい部分もあるんじゃないの?」と……。

冒頭でこの映画はコメディーだと書きました。それはもちろん本当です。ただしこの映画を見ることで、背筋がゾッとするような自分の“何か”に気が付いてしまうかもしれません。

原作がドイツの作品なので予備知識が必要

悪い点を挙げるとすれば、視聴者側にある程度の予備知識があることが前提になっている点でしょう。

原作がドイツの作品ですから、こればかりは仕方のないところです。

原作小説にはその辺りをカバーした注釈が付いているので、気になったら原作を手に取ってみるのもいいと思います。

「帰ってきたヒトラー」は自宅でも十分に楽しめる作品です。

すでに公開終了してしまっている映画なので、自宅一択となってしまいます。しかし、映像がメインとなるような映画ではないので、自宅でも十分に楽しめると思います。

この映画には目を見張るような映像も、華麗なアクションシーンも、映画館の音響が大活躍するような派手なシーンも存在しません。ただただ淡々と物語が紡がれていくような映画です。

自宅のテレビで視聴したとしても、この映画の良さが損なわれることはないでしょう。静かな部屋で一人じっくり楽しむにはオススメの映画だと思います。

「帰ってきたヒトラー」は一部の人しか楽しめない映画ではありません

題材からして、おそらく歴史や政治に興味のない人からすると敷居は高いと感じるかもしれません。ですが、この映画は決して一部の人しか楽しめないような映画ではないと思います。

ドイツの歴史に詳しくない等、予備知識に不安があったとしても、です。

オリヴァー・マスッチ演じるアドルフ・ヒトラーは、もはや本人かと見紛うような完成度で、画面に映っているだけで終始強烈な存在感を放ち続けます。

そして、物語と舞台となるのは、国が違えど私たちが生きているこの現代です。

突如現代に帰ってきたヒトラーに対して、21世紀を生きる人々が何を感じ取るのか、映画のなかで描かれているそれは、映画を見ている私たち自身でもあると思います。