技術士二次試験を受験するには実務経験証明書を通じて
- 受験する選択部門、選択科目に相応しい技術者としてどのように成長してきたか?
- 業務内容の詳細を通じてどのように技術士として相応しい技術者として業務を行ってきたか?
これらを明確にする必要があります。
この本質を理解せずに証明書を記入してしまうと、技術士に求められる専門性や主体性が証明できません。運良く筆記試験に合格したとしても、口頭試験で試験管からの厳しい指摘に答えられず、不合格となるリスクがあります。
こうなるととても悲惨です。厳しい筆記試験をもう一度受験する必要があります。
そのようなことを避けるためにも、実務経験証明書に求められる内容をしっかりと理解して作成することで、口頭試験にも対応した実務経験証明書を作り上げましょう。
実務経験証明書とは?なぜ重要なのか?
実務経験証明書は、技術士二次試験の受験申込時に提出する書類で、これまでに従事してきた技術業務を簡潔にまとめたものです。ただし、単なる「業務経歴」ではありません。重要なのは、“技術士法に則った業務を、主体的に遂行したかどうか”を証明することです。
科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務を行う者をいう。
(技術士法第二条より抜粋)
つまり各業務は科学技術に関する業務であり、「計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導」の業務です。
この書類では「業務の目的」「あなたの立場と役割」「技術的課題」「解決のための工夫」「成果」などを、簡潔に、論理的に記述する必要があります。さらに、あなたの資質能力(コンピテンシー)も文字から読み取れるよう意識して書くことが重要です。
ただし勘違いしてほくないのが単なる申込書ではありません。技術士二次試験はこの時点から始まっています!さらに技術士二次試験は「技術士にさせてもらう試験」という観点であありません。すでに自分は「技術士足りえることを認めてもらう試験」となります。
技術士として相応しい内容を書く必要があります!
口頭試験対策にも必要!
実務経験証明書は書類審査用の書類ではなく、「口頭試験の面接官があなたに質問するための資料」でもあります。試験官はこの内容をベースに質問を組み立てます。
つまり、あなたが「ここを質問してほしい」というポイントを的確に書き込むことで、口頭試験を“自分にとって答えやすい土俵”に持ち込むことができます。逆に曖昧だったり、論理が飛躍していたりすると、「なぜそうしたのか?」「あなたの判断か?」といった追及を受けやすくなります。
特に注意すべきは選択科目の間違いです。口頭試験開始早々に
- 「そもそもこの内容だと、科目は◯◯では?」
と言われたらもうおしまいだと思ってください。こうなると口頭試験の短い時間(20分)で挽回するのはほぼ不可能でしょう。
そうならないためにも、選択科目の間違いがないようにすることが必要です。
業務報告ではない!
実務経験証明書でありがちなNG例は、「業務日誌のような報告文」になってしまうことです。
たとえば、「◯◯の設計に従事」「◯◯の評価業務を担当」などの単なる作業の羅列はNGです。技術士試験で評価されるのは“高度な専門的応用能力”であり、“業務上の主体性”です。
人によっては業務によって会社から表彰されたりと色々とあると思いますが、
- 【✕】◯◯装置のCAD作図を担当
- 【〇】⚪︎を△により◻︎%改善した⭐︎の設計
(△が工夫、◻︎が目的、⭐︎が技術要素)
このように、なにをどんな技術要素のもとで設計などをしたのか?それがわかるように書く必要があります。
さらに主人公は受験者、つまりあなたです!主体は会社ではありません。単に「会社に命令されたから」という内容ではなく技術士として相応しい自分はどう考えて業務にあたったか?という視点で書くようにしましょう。
たまに「会社の超巨大プロジェクトを担当した」「NEDOの仕事をした」などを書く人がいますが、それは会社がすごいのであってあなたがすごいわけではありません。勘違いしないように
まず知っておくべき言葉の定義
実務経験証明書を書く前に最低限理解して欲しいことは以下の二つとなります。
- コンピテンシー
- 問題と課題の違い
コンピテンシー
コンピテンシーとは「技術士として採点限備えるべき資質能力」です。
何度も言いますが技術士試験というのは「すでに技術したり得る仕事をしていることの証明」とも言える試験です。つまりコンピテンシーもしっかりと理解している必要があります。
よって実務経験証明書も(特に業務内容の詳細)はコンピテンシーにのっとり、自分がコンピテンシーを兼ね備えている技術者であることを証明する必要があります。
特に実務経験証明書を書く上で気をつけて欲しいのは
- コミュニケーション:論文を書く際は図や表を支えるが実務経験証明書(業務内容の詳細)では図、表は使用できない!いかにわかりやすく書くか?数値がとても重要になる
- マネジメント:人員、設備、金銭、情報などの資源を配分することなので、単に「人を増やす」「予算を増やす」ではダメ!それは技術士でもできる。
- リーダーシップ:最も誤解しやすいところ。技術士に必要なリーダーシップは「利害関係の調整」。「黙って俺について来い!」ではない
- 評価:結果どうなったの説明、次の業務にどう活かすか?反省点は?
問題と課題の違い
みなさんは問題と課題の違いを適切に理解しているでしょうか?「修習技術者のための修習ガイドブック」によれば
「問題分析」とは「問題」の背景・要因・原因を明確にし、問題を解決するために
なすべき「課題」を適切に設定することである。ここでは、 「何が問題であるのか=問
題は何か」を明確にすることが重要である。
「問題」とは、「あるべき姿(目標・水準)と現状とのギャップ(差異)」と定義し、
「問題=目標(水準)値-現状値」
で表現する。いろいろな角度から背景・要因・原因を調査・分析し、「この問題を解決
するための課題」を適切に設定する能力が問題分析能力である。
「修習技術者のための修習ガイドブック」から引用
これを適切に使い分ける必要があります。例えば「◯◯のバラツキが課題」と言われても意味が通りません。本来であればこれは問題のはずです。他にも覚えておくべき言葉の定義は
- 目的:前提、ニーズ、願望(主観的)
- 目標:客観的に示せるもの例えば
①対象が明確で数値化、定量化できる
②すでに狙いが最善とわかる。
③手段がわかる。すでに対応策に当たりがついている。 - 問題:理想(目標)と現実のギャップ
- 課題:問題を解決するため、目標に到達するためにやるべきこと
- 問題点:課題で挙げた技術的要件を阻害する要因
- リスク:自然現象や人間の行為が、人間の生命、財産、生存環境などに損害を与える恐れがあること、あるいはその恐れの大小のこと。起こることが確実にわかってはいないこと
これら言葉の定義は早い段階で覚えておきましょう。論文を書く際にもとても重要です。
この構成を守ると、「技術士にふさわしい実務経験」が自然に浮かび上がってきます。
選択科目を間違わないように書くには?
ここも盲点になりがちです。「機械設計だから設計やってればいい」と思いがちですが、違います。
たとえば、機械設計は「設計工学」に基づく設計手法、判断根拠、最適化などを理解して使えていることが前提です。図面が描けるだけでは不十分です。
「設計プロセスの立案」「要素選定の理由づけ」「設計FMEAによるリスク評価」など、選択科目の専門的スキルが反映されている記述を心がけましょう。
他の科目も同じです。なんとなく流体機械を扱っているから「流体機器」、熱関係のことを多くしているから「熱・動力エネルギー機器」という選択の仕方では間違いを起こすかも知れません。対象としてきた製品ではなくスキル(技術)が重要です。
特に機械設計は「設計工学」です。機械工学便覧の「設計工学」のところをよく読んで、自分の業務が本当に機械設計なのか確認しましょう。そのためには「選択科目の内容」をよく読みましょう。
実際の書き方
ここからは実際の書き方を記載していきます。内容に関しては会社の秘密情報も含みますので、かなりのところを隠していますがご了承願います。
地位・職名
ここは会社の役職「主任」「係長」「課長」「部長」などを記入する人が多いと思います。実際に技術士会からの案内でも役職が記入されていますが、ここには「技術者としてどのような責任範囲のもとで仕事をしてきたか?」が重要です。
「え?新入社員の頃に責任なんてないよ」と思う人もいるかも知れません。しかし、いち設計員としても自分の行った設計に対する責任はあります。そのような意味で私は「設計員」「設計責任者」などと記入をしました。

技術者倫理の中では「業務履行条行う決定に際して、自らの責任及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと」と書いてあります。
つまり「技術責任者」もしくは「技術的責任者をはたせる立場」にあったかが重要です。そういう意味での「地位・役職」です。
そういう意味では「主任」「課長」などは会社が与えた責任権限ですから、問題ないですね。
重要なのは「自分が技術的な問題を主体的に解決できる立場」であったことを示すことです。
業務内容
ここも非常に重要なところです。注意すべき点は
- 受験申込書に記入している「技術部門」「選択する科目」「専門とする事項」に整合した内容であること。
- 「技術部門」「選択する科目」のコアな技術が何かわかること、それが合致していること。
- 技術士法第二条に示している「計画、研究、設計、分析、試験、評価」の表現を必ず使用すること
以上の3点となります。
「技術部門」「選択する科目」「専門とする事項」に整合した内容であること。
人によっては「あれもこれも」書きたいという人がいるかも知れません。しかし、その内容が「技術部門」「選択する科目」「専門とする事項」からずれていると、口頭試験で厳しい指摘を受けます。
いくら技術士として相応しい業務を行なっていても、このような事態になると口頭試験で落とされる可能性が非常に高くなります。
コアな技術が何かわかること、それが合致していること。
どういう技術を使用したのか?どういう技術から創意工夫をしたのか?
それがわかる必要があります。これも前述のときと同様に「技術部門」「選択する科目」と合致していることが必要です。そのためには「選択科目の内容」をよく読みましょう。

選択科目の内容をよく見ると「あれ?実は機械設計じゃなくて加工・生産システム・産業機械じゃない?」などと気づくと思います。何度も言うようによく読んで正しい選択科目を選びましょう。
実際の書き方としては私は技術的な要素や工夫、成果をよくわかるように記入しました。

技術士法第二条に示している「計画、研究、設計、分析、試験、評価」の表現を必ず使用すること
これも気をつけてください。時々「開発」と記入する人がいますが、「開発」は技術士の業務に含まれていません。その時点で「技術士にふさわしくない」となります。
業務内容の詳細
最も重要な業務内容の詳細です。「令和7年度 技術士第二次試験 受験申し込み案内」には以下のように記入されています。

「目的、立場と役割、技術的内容及び課題、技術的成果」などと書かれていますがこれはあくまでもこれは例で、以下のように書くことがおすすめです。
- 目的:業務の背景、なぜその仕事が必要だったのか?
- 立場と役割:プロジェクト内でのポジション、自分の責任範囲
- 技術的課題:どんな課題・制約条件があったのか?
- 解決策・工夫点:どのようにその課題を分析・評価し、どんな対策を行ったか?
特に問題点(課題を阻害する要因)をどのような工夫で解決したのか? - 成果と評価:結果はどうだったか?何を得たのか?波及効果は?将来に生かすことは?
下記にそれぞれの項目で何が重要なのか記載します。
専門的学識
いきなり上に書いていない項目で申し訳ないですが、専門的学識としては何度も言いますが選択科目に合致していることが必要です。
「機械設計」とかいるのに「ロボット工学」的なことを書くと、申し込み時点ではいいとしても口頭試験の際に試験官は「??」となります。となると技術士としての的確性の確認から入りますので、ただでさえ時間が短い口頭試験の時間がさらに圧迫されます。
結果、コンピテンシーを全て確認できず不合格となることも予想されるので十分注意しましょう。
目的
業務の背景としてなぜこの業務が必要なのか?できれば目標として何か数字(目標値)で示せるほうがいいでしょう。でもその目標値も具体性と現実的なものでなければいけません
立場と役割
勘違いしないで欲しいのはここは「私はこんなに偉い立場だったんです!どうでしょう技術士として相応しいでしょう!」ということではありません。コンピテンシーの「リーダーシップ」と「マネジメント」の観点から書いてください。
つまりリーダーシップの観点から書くとすれば、利害関係の調整なので
- 社内関係者を取りまとめ設計プロジェクトを統括するプロジェクトリーダーの立場
マネジメントの観点ではリソースの配分なので
- 社内関係者とプロジェクト予算の取りまとめを主体的(←この言葉重要)に行なった。
これを一つにまとめて
- 社内関係者を取りまとめ設計プロジェクトを統括するプロジェクトリーダーの立場として、社内関係者とプロジェクト予算の取りまとめを行う◯◯業務(←業務内容の詳細に丸をつけたもの)を主体的に行なった。
と書けば完成です。ちょっと長いですけど
技術的課題
目的がなぜ達成できないのか?それを分析して解決するためにやること(課題)を書きましょう。
重要なのはきちんと理想と現実のギャップをしっかりと分析をして(問題)、その解決策を提示(課題)して示すことです。課題はやるべきことなので注意しましょう。たまに問題を課題として提示する人がいますが、それでは試験官は「??」になります。
解決策・工夫点
最も重要なのがこの解決策と工夫点です。おそらく技術的課題までは導き出せる人が多いと思います。
しかし、残念ながら技術的な業務というのは簡単に課題の実行をすればいいものではありません。例えば予算、スケジュールの不足や課題を実行することで不都合なことが起こるなど、簡単に解決できません。
これが問題点です。この問題点を解決するためにみなさんはそれぞれの選択科目のスキルを利用して創意工夫をして、解決していきます。
よってここでは問題点はなんなのか?それを解決するための技術的な創意工夫は何か?それを記入することが重要なのです。勘違いしないで欲しいのはリソースを増やすという観点で「人を増やす」「会社に追加予算を申請する」と書く人がいますが、これは大きな間違いです。
あなたは技術士として相応しい業務を行なっているのであれば、まず技術的な創意工夫で解決すべきだからです。上に挙げた「人を増やす」「会社に追加予算を申請する」は技術士でなくともできます。
そこを十分に注意して書くようにしてください。
成果と評価
ここで重要なのは「問題点が解決したのか?」「目的はクリアしたのか?」「次業務への展開」「将来への懸念」などを記入しましょう。ただし、ここを書き過ぎて他の項目が短くならないように。重要なのは技術的な話です。
また、あまりにも将来への懸念があると「それは解決になっていないのでは?」と疑念が持たれますので程々にしましょう。技術者倫理の観点から書くことが重要です。
口頭試験の業務経歴の説明の際に追加で説明することとして、あえて短く書くのも作戦としてはいいかも知れません
最終的な私の項目区分はこんな感じとなりました。行間からどの程度のボリュームを書いているか?察していただければと思います。

9. かならず技術士に添削してもらおう!
自分では完璧だと思っていても、読み手(=試験官)には伝わっていないことが多いです。できれば同じ選択科目の技術士に見てもらい、以下の点をチェックしてもらいましょう。
- ストーリーが一貫しているか?
- 技術士法・コンピテンシーを意識できているか?
- 科目の専門性が感じられるか?
- 「自分がやったこと」になっているか?
文章がうまくても、「技術士っぽさ」がないと評価されません。ここは第三者の目が必須です。
ただし・・・技術士によっては最新の受験申込書を読んでいない人もいるので、できれば複数の人にチェックしてもらうことがおすすめです。
10. まとめ
技術士二次試験の実務経験証明書は、ただの業務経歴ではなく、あなた自身が「技術士にふさわしい技術者」であることを示す最初のステップです。
- 技術士法に則った業務であること
- コンピテンシーを備えていること
- 選択科目の専門性が出ていること
この3点を意識しながら、「読ませる」文章を心がけましょう。そして、最も大切なのは、一貫したストーリーです。すべての要素が一本の軸に貫かれた構成が、試験官の評価につながります。
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