2020年6月から食品の包装容器や食品製造機械で食品に直接接触する樹脂を対象に、ポジティブリスト制度が施行されたのはご存知でしょうか?
単に樹脂に関する制度が変わっただけではなく、樹脂を製造する業者、使用する側共に大きな影響がある制度です。
中でも重要なのは「食品衛生法(昭和22年法律 第233号)第18条の規定に基づき 制定された「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)第3のAの8 」に適合しているかどうかです。
私は専門家ではありませんが諸事情によりこの制度のことを調べましたので、なるべくわかりやすく解説していきたいと思います。
「【 ポジティブリスト制度導入 】改正食品衛生法で変わる対応事項と食品容器包装材料・食品接触材料の規制動」
ポジティブリスト制度が施行されるとどうなるのか?
ポジティブリストとは食品用の包装容器や食品製造機械で食品に直接接触する部分に使用される樹脂材料を規制する制度です。
簡単にいうとこの制度が適用されることにより
- GMP、HACCPなどに適合した設備や管理方法で樹脂材料を作る必要がある。
- ポジティブリストに記載の材料のみ使用していると証明しなければならない。つまり企業秘密となる樹脂の配合割合なども公表する必要がある。
- 樹脂材料を購入して加工している業者は、上流の工程でも管理できるようにしなければならない。
- 経過措置期間(5年間)の期間内なら今まで製造していたものは製造可能だが少し注意が必要。
- そもそもどこからが食品なのか?はっきりさせる必要がある。
- 食品製造工場の場合どこから適用させるのか?
- 今まで購入し使用していた樹脂の部品が使用不可能になる場合がある。
などの問題点が起こる可能性があります。しかし、すでに(2020年6月)から施行済みなので守らなければいけません。
経過措置期間内だからと言って対応を延ばし延ばしにしておくと、直前になってポジティブリスト制度に対応できないかもしれません!なるべく早く対応しましょう。
ちなみに私は専門家ではありませんので、本記事内の情報は必ずしも最新&正確ではないかもしれませんのでご注意願います。
一体何が問題になるのか?
- 別にポジティブリストに適合すればいいだけでしょ?
と思う人もいるかと思いますがそんな単純な問題ではありません。
食品製造機械には多数のエンジニアリングプラスチック(超高密度ポリエチレンやポリアセタール樹脂(ジュラコンやデルリン))やスーパーエンジニアリングプラスチック(PTFEやPEEK)が使用されています。
これらは一般的な名称でもありますが、これらに添加剤を配合して性能を向上させたものあ多くあります。
製造する側としてはこれらの樹脂の製造工程をポジティブリスト用に適合させ、かつ成分を明確にしないといけません。
使用する側としてはポジティブリストに適合していないと食品と直接接触する用途には使用不可能となります。
そのため、製造する側も使用する側にも影響のある制度なのです。
なぜポジティブリスト制度が施行されたのか?
日本では昔からネガティブリスト制度のもとで樹脂材料が規制されていました。ネガティブリスト制度というのは
- 絶対に使用してはいけない材料を明記する。
というものでした。ネガティブリスト制度の利点としては
- 規制されていない材料は何でも使用できる。
- 新材料もすぐに使用することができる
しかし欠点もあり
- 有害でもネガティブリストに記載がなければ使用できる。
- 何か問題が起きた際に迅速なリスク管理が難しい。
- 国際社会はポジティブリスト制度が主流。国際社会に乗り遅れている。
(とはいっても欧州、米国、日本でのポジティブリストは若干違うけど・・・。)
特に三つ目の「国際社会はポジティブリスト制度が主流。国際社会に乗り遅れている。」というのがあり、さらに米国や欧州で規制されている材料でも使用できる状態であることからポジティブリスト制度への移行が検討され、施行されました。
ポジティブリストとは?
今回施行されるポジティブリストとは
- 使用してよい材料のみをリスト化する。安全性が確認できた材料のみしか使用できないので、非常に安全性が高い。
- 問題が発生しても迅速なリスク管理が可能(GMP、HACCPなどに適合した設備や管理方法で樹脂材料を作るので)。
- 国際社会ではこちらが主流。
もちろん欠点もあり
- 新材料も安全性が確認できるまですぐに使用できない。
- 樹脂の配合などの各社の機密情報も開示する必要がある。
という欠点もあります。
製造側が注意すべき点
経過措置期間内でも注意!
ポジティブリスト制度は2020年6月から施行されていますが、2025年5月末までは経過措置期間内となります。
これは2020年6月以前に製作されていた樹脂であれば、それと同様であればポジティブリストに適合とみなす。
しかし、この「同様であれば」というところに注意が必要です。
例えば樹脂材料の中である添加剤の配合が
- 5%
と記載されている場合注意が必要です。「同様」ということは絶対に5%でなければいけないので、製造するのが非常に難しくなります。
逆に
- 5%〜10%
と記載されていれば製造する方としては非常に製造しやすくなります。
単に「同様」と言ってもこのような事が起こりかねるので注意が必要です。
配合樹脂などの機密情報をどう管理するか?
ここが非常に問題が大きいところかもしれません。使用している材料全てがポジティブリストに適合していることを証明する必要があるからです。
これに関してはこのような制度になってしまった以上どうしようもありません。対応としては
- 使用する業者と秘密保持契約などを締結してむやみやたらに情報が開示されないようにする。
- 弁護士などと契約して機密保持を徹底する。
- ポジティブリストへの適合を諦める。
というような対応が考えられます。
工程内での再利用をどうするか?
樹脂の切削などをしているとどうしても削ったカスなどが発生します。そしてそれらをリサイクルするのはよくあることですが、この工程の途中でポジティブリスト制度に記載のない樹脂が混合する恐れがあります。
そのような場合はどうするのか?
交じることはないと完全に証明できればいいのですが・・・なかなか難しいと思います。
GMP、HACCPに対応した工場運営をする必要がある。
GMPやHACCPに対応した工場運営が求められます。そのためには多量の書類などが必要で、どのようにリスクを管理していくかを明確にする必要があります。
今までこのようなことをしてこなかった町工場のような加工業者にもこの対応が求められます。
使用する側が注意する点
そもそもどこからが食品?
例えば原材料を加工して工程の途中で薬品などを添加し、最終的に乾燥して粉砕の後に出荷する場合、一体どこから食品でしょうか?
基本的にはお客さんに出荷する最終形態と考えれば良いようです。
そのため、最終形態の前や添加する薬品のラインなどはポジティブリスト制度の対象外となります
しかし、最終的な判断は保健所に一任するのがベストです。
ポジティブリストの対象となりそうな箇所のピックアップ
ポジティブリストの対象となる箇所は事前にピックアップしておく必要があります。
そしてその箇所の樹脂は全てポジティブリスト対応の樹脂と変更する必要があります。
樹脂を購入している場合は2025年5月までの対応を問い合わせておく
基本的に2025年5月までは、2020年6月以前に製造していた樹脂と同様のものであればポジティブリスト制度に適用となります。
しかし、あくまでも2025年5月までなのでそれまでに必ずメーカーの対応情報をはっきりさせておきましょう。
最悪の場合は直前になって食品用機械用としては使用可能な樹脂を探す必要が出てくる可能性があります。
各メーカーなどの対応状況は?(2021年2月)
私が調べたメーカーの対応状況ですが大体3種類に別れます。
- ポジティブリスト制度の適合していると宣言している会社。
- 2025年は同様のものを製造するとしている会社。
- ポジティブリスト制度に対応不可なので「食品と直接接触する用途には使用不可能」と書いている会社
以上の3つに大きく別れます。
実際、最も多いのは2番です。3番には注意が必要で私が電話をした会社は「将来的にもポジティブリスト制度に適合する予定はない」と言っていました。
2番も早い段階で2025年以降はどうなるのかはっきりさせておく必要があります。最悪の場合は3番のようになる可能性もあります。
まだネガティブリストも有効なので注意!
ポジティブリスト制度が施行されましたが、ネガティブリスト制度がなくなったわけではありません。
「絶対に使用してはいけない材料」としてネガティブリスト制度も有効な状態なので注意しましょう。
その他の問題点など
- どのような情報を川下に伝達すればいいのか?
→ポジティブリスト制度に適合していること。もしくは経過措置期間内なのでポジティブリスト制度に適合していること。 - 食品製造機械とか食品用の容器とかの定義は?
→食品衛生法1章4条の4項と5項(これは変更されていない?)。 - 製造する側としては最終的にどのような用途で使用されるかわからない。気づいたら川下で食品用に使用していたらどうするのか?
→基本的にポジティブリスト制度に適合することが必要(メーカーとしては厳しくないこれ?) - 海外のポジティブリストに書いてあれば日本では使用可能?例えばFDA認証済みの材料とか
→海外は関係ない。日本のポジティブリスト制度に適合することが必要(これも厳しい。輸入して使用したらどうするの?) - 食品添加物として使用されている物質は対象外か?
→食品添加物でも樹脂に添加されればポジティブリスト制度に対象。 - 英語の資料がない。
- 物質のみを確認すればいいのか?
→物質だけでなく使用の範囲内。
まとめ
ポジティブリストの施行により製造側も使用側もこれまでとは違う対応が求められています。
経過措置期間もありますが直前になって焦ることを考えると今のうちに対応しておくのがベストと言えるでしょう。
また、将来的にはゴムもポジティブリスト制度の対象になると言われているので、早い段階から情報収集を勧めておくことをおすすめします。
不明点は「食品接触材料安全センター」まで
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