化学プラントで多用される圧力容器ですが、決して化学プラントだけでなく一般的な工場でも多く使用されています。例えば計装空気のレシーバータンクとかですね。
このような圧力容器を設計する際は設計圧力の考え方が非常に重要となります。設計圧力を間違ったまま設計すれば安全弁やラプチャーディスクなどからのガスの放出、最悪の場合は板厚強度の不足から破裂や圧壊などの事故につながります。
今回は圧力容器の設計で重要な設計圧力の考え方を解説していきます。
実際の圧力容器の計算方法や注意点は「【プラント設計の基礎】タンク・圧力容器の強度計算の方法について【内圧・外圧】」をご参考にしてください。
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設計圧力、許容圧力、常用圧力とは
圧力容器の設計圧力について考える前に「設計圧力」、「許容圧力」、「常用圧力」について解説します。なぜならこれらの考えを誤ったまま理解すると、最終的な設計にも影響をおおぼすからです。
設計圧力
高圧ガス保安法では「設計圧力は、当該設備を使用することができる最高の圧力として設計された圧力」をいいます。
常用圧力
高圧ガス保安法では「常用の圧力は、通常の使用状態において、当該設備等に作用する圧力(当該圧力が変
動する場合にあっては、その変動範囲のうちの最高の圧力)であって、ゲージ圧力」をいいます。
たまに使用圧力という人もいますが、それは正しい用語ではありませんのでこれを機に「常用圧力」に言い換えましょう。
許容圧力
実はこの言葉は明確な定義がされていません。そして自治体の資料などにより定義が違うので非常にややこしくなっています。
例えばある自治体では「設備の実際の肉厚から、最小厚さを求める計算式で逆算して求められる圧力(その時点で設備が許容できる圧力)」という定義のところもあります。つまり設計圧力にはある程度余裕を持っており、使用する鋼材の板厚から使用できる最高圧力という意味です。
この場合は許容圧力>設計圧力>常用圧力となります。
一方、他の自治体では「設計圧力に至る前に安全弁を作動させる圧力」という解説のところもあり、明らかに定義が違います。
この場合は設計圧力>許容圧力>常用圧力という考えになります。
どちらが正しいと言われると非常に難しい問題ですが、私はややこしいので許容圧力という言葉は使いません。実際、例えば第二種圧力容器の設計でも許容圧力という言葉を使わなくても申請できるし、安全弁の吹き出し圧力は設計圧力以下で、吹き出し量を正確に計算すれば問題ありません。
ややこしいので使わないことがおすすめですが、もし使うときは私は「許容圧力>設計圧力>常用圧力」の考えで進めています。
内圧と外圧の考え方
圧力容器の設計圧力を考える際に考えるべきことは「内圧」と「外圧」の二つだけです(タンクの上に攪拌機を乗せるとか配管用に穴を開けた際の穴補強はまた別の話)。
ではその内圧と外圧の基本的な考え方を解説します。
内圧の考え方
まずは最も基本的な考えで内圧がかかる場合です。なお、今回は第一種圧力容器や第二種圧力容器についての解説は行わずに、あくまでも設計圧力の考え方を解説します。そのため、安全弁の取り付け位置、吹き出し圧力、ラプチャーディスクの設計圧力などの解説も同様に行いません。
単純に内圧がかかる場合はどのような場合でしょうか?例えばコンプレッサーの後にあるレシーバータンクなどです。単に内圧のみがかかり、内圧のみを考えれば良い場合というのは下記のようになります。
- 圧縮機やファンから供給された流体やガスの圧力を保持する。
- 吐出側は内圧と搬送先の圧力差のみで流体を搬送する。
- 真空ポンプなどで流体を抜いたりはしない。
図で表すとこんな感じになります。
このような感じで圧力容器の外側は大気圧、内側だけ加圧される場合は単純に圧縮機やファンからの最大供給圧力を常用圧力として問題ありません。
設計圧力に関しては許容圧力よりある程度余裕を持って考える必要があります。もちろん安全弁をつける場合は安全弁の吹き止まり圧力も十分考慮しましょう。
吹き止まり圧力より、常用圧力が高いと安全弁が吹き止まらなくなりますよ。
圧力容器にファンや圧縮機で加圧する場合は内圧のみ考慮すればOK!
外圧の考え方
圧力容器は内圧だけを保持するだけではありません。時には圧力容器の中を真空状態にすることもあるので、その際は外圧に耐える必要があります。
このような場合は常用圧力を圧縮機やファンの最大の吸い込み能力、設計圧力はある程度余裕を見て決めていきますが、この場合は外圧は大気圧以上にはならないので大気圧を設計圧力としても問題ありません。
- 単純に大気圧以上の外圧がかからない場合は大気圧を設計圧力に!
実際の設計
ところが実際の設計はこのように単純な問題にはなりません。内圧と外圧の両方を考慮する場合もありますし、外圧が大気圧以上の場合もあります。
具体的な例を見ていきましょう。
内圧と外圧の両方を考慮する場合
例えばPVSA(Pressure Vaccum Swing Adsorption)方式のガス濃縮機の場合は以下のような制御プロセスとなっています。
ブロワで空気を0.04MPa程度に昇圧し、N₂、CO₂、H₂Oをゼオライトに吸着させ、酸素を製品として供給します。
新興エアーテック株式会社HPより引用
吸着した窒素等は真空ポンプで200Torr程度迄減圧する事により脱着し、吸着剤を再生します。
概略図とするとこのようになります。
このような場合は内圧と外圧の両方を考慮する必要があります。しかし、内圧に関しては圧縮機やファンの能力左右されますが、外圧に関しては最大値は大気圧となるので計算的には非常に簡単です。
とはいっても必要以上に設計圧力を高く考えると(外圧の場合は低く)、圧力容器の肉厚もどんどん厚くなるので注意する必要があります。
- 単純に内圧と外圧がかかる場合はそれほど難しくは無い!
外圧が大気圧以上の場合
実際には外圧が大気圧以上かかる場合もあります。このような場合は設計圧力の考えが少し複雑になります。
例えば圧力容器の中に圧縮機やファンで流体を加圧しながら供給し、同時に冷却水などをジャケット部に供給する圧力容器を考えてみます。
例えば設計圧力を本体側を0.8MPaG、ジャケット側を0.2MPaGとします。この時その圧力差は0.6MPaGとなります。単純に考えると本体側は0.6MPaGの圧力に耐えればいいと思いますが、そんな簡単な話にはなりません。
もちろん制御などをしっかりと考えればこのようなことになると思いますが、基本的に内圧と外圧は分けて考えることをお勧めします。
つまりこの場合の設計圧力の考え方は
- 本体側:内圧:0.8MPaGかつ外圧:0.2MPaG
- ジャケット側:内圧:0.2MpaG
このように分けて考えることが必要です。もちろんジャケットに蒸気を吹き入れる際は凝縮した場合に、外圧(大気圧)に耐えれるようにすることが重要です。
- 内圧と外圧は分けて両方とも最も高い圧力を設計圧力とする!
外圧がかかる際の耐圧試験は??
圧力容器は必ず耐圧試験や気密試験をしなければいけません。しかし、外圧がかかる場合はどうすればいいのでしょうか?実際に外圧をかけることはほぼ不可能です。
そのためJISでは以下のように規定されています。
外圧を受ける容器は,11.6.2又は11.6.3の規定において設計圧力を設計外圧と読み替えて算出した試験圧力で,内圧による耐圧試験を実施しなければならない。ただし,その圧力は,設計内圧の1.5倍以上とする。
JISより引用
このように外圧の設計圧力により試験を実施することが必要です。
圧力容器は設計圧力の考え方が重要!
圧力容器は大規模なプラントだけではなく、普通の工場などでも多く使われている機器となります。
しかし、「圧力容器」という名の通り内部にはガスなどを大きな圧力で保持しており、万が一の事故の際には大きな被害を及ぼします。
そのため設計の際には設計圧力をしっかりと考えて設計することが必要です。圧力容器はほとんどのプラントで必須のものですので、しっかりと勉強してください!
実際の圧力容器の計算方法や注意点は「【プラント設計の基礎】タンク・圧力容器の強度計算の方法について【内圧・外圧】」をご参考にしてください。
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