【トラブル対応】ポンプが水を吸わない・流量が出ないときの原因切り分け|圧力計と電流値で5分で絞り込む

ポンプを起動しても吐出側へ送液されない、あるいは流量が目標値に達しない。うず巻ポンプの流量不足は設備保全および生産技術の現場で比較的頻繁に発生するトラブルです。

このとき問題となるのが、原因を特定しないまま処置を開始するケースです。呼び水の再注入、ストレーナの清掃、吐出弁の開度調整。いずれも有効な処置ですが原因と対応していなければ復旧に至らず、時間だけを消費します。処置を試している間もポンプは運転を継続するため、軸封部や軸受の損傷に発展する場合があります。

うず巻ポンプの流量不足は、原因が吸込側・ポンプ本体・吐出側の3か所に分類できます。どの領域に問題があるかは、吐出圧力計・吸込側の連成計・運転電流という3つの測定値から相当の範囲まで絞り込むことが可能です。専用の診断機器は必要としません。

目次

1. 最初の判断:運転を継続してよいか

1-1 送液していない状態で運転を継続した場合の影響

流量が出ていない状態のポンプは内部で水が循環しているか、あるいはほとんど水がない状態で羽根車が回っています。どちらの場合も羽根車が水に与えたエネルギーが外に出ていかず、ポンプ内部で熱になります。

うず巻ポンプの軸封部は、多くの機種で送液そのものによる潤滑と冷却を前提としています。メカニカルシールの摺動面もグランドパッキンの内周面も同様です。送液がなくなれば摺動面は乾いた状態で回り続けることになります。この状態は空運転(ドライラン)と呼ばれ、メカニカルシールの損傷要因として最も多いものの一つに数えられます。

1-2 【試算①】締切運転による水温上昇の速度

吐出弁が閉まったまま運転が続く「締切運転」では、軸動力のほぼ全量がポンプ内部の水を温めることに使われます。ケーシングからの放熱を無視した場合、水温の上昇速度は次の式で表せます。dTdt=Pcm\frac{dT}{dt} = \frac{P}{c \cdot m}dtdT​=c⋅mP​

ここで P は軸動力(W)、c は水の比熱 4,186 J/(kg·K)、m はポンプ内部に滞留している水の質量(kg)です。

ポンプ軸動力内部滞留水量昇温速度20℃→80℃ までの時間
0.75 kW2 L5.4 K/min約11分
2.2 kW3 L10.5 K/min約6分
2.2 kW8 L3.9 K/min約15分
11 kW15 L10.5 K/min約6分

実際にはケーシング表面からの放熱があるため、これより緩やかに推移します。ただし、時間のオーダーが「時間」ではなく「分」であることは押さえておく必要があります。「原因を調べる間、とりあえず回しておく」という判断が成立する時間幅は短いということです。

なお、この昇温は水温そのものより、飽和蒸気圧の上昇を通じてキャビテーションを誘発する経路のほうが問題になります。この関係は 4-3 で扱います。

1-3 継続してよいかの判断基準

現場での判断は、次の順序で行います。

  1. 軸封部から漏れが出ていないか?異音がしていないかを確認する
  2. 吐出弁が開いているかを確認する(締切運転であれば、原因究明より先に弁を開ける)
  3. 電流値が定格の40%程度まで低下している場合は、送液していない状態にあたるため停止する
  4. ケーシング表面に手を近づけて、温度が上がっていないかを確認する

3については、次の 3-3 で数値の根拠を示します。


2. 症状を3つに分けて考える

「流量が出ない」という報告には、性質の異なる3つの状態が含まれています。切り分けの前に、どれに該当するかを確定させます。

症状の分類典型的な状態想定される領域
A:まったく出ない起動しても吐出圧が上がらない、圧力計の針が動かない吸込側(呼び水・エア噛み・フート弁)、回転方向
B:出るが量が足りない吐出圧は出るが目標流量に届かないポンプ本体(摩耗)、系統抵抗の増加、回転数
C:出たり止まったりする圧力計の針が振れる、運転音が周期的に変わるキャビテーション、エア巻き込み、液面低下

Aは吸込側または電気側、Bは機械的な劣化または系統側、Cは吸込条件の余裕不足に対応することが多くなります。この分類だけでも、調べる範囲は3分の1程度に絞れます。


3. 測る順番:3つの計器で絞り込む

3-1 吐出圧力計から全揚程を出す

最初に見るのは吐出圧力計です。ここから全揚程を概算します。JIS B 8301:2018 では、全揚程は吐出し全ヘッドと吸込全ヘッドの差として定義されています(同規格 3.2.15)。吸込側と吐出側の口径が同じで速度ヘッドの差が無視できる場合、現場では次の簡略式で足ります。Hpdpsρg+ΔzH \fallingdotseq \frac{p_d – p_s}{\rho g} + \Delta zH≒ρgpd​−ps​​+Δz

Δz は吐出側圧力計と吸込側圧力計の取付高さの差です。

吐出圧力吸込圧力吐出ヘッド吸込ヘッド全揚程 H
150 kPaG−20 kPaG15.33 m−2.04 m約17.7 m
100 kPaG−20 kPaG10.22 m−2.04 m約12.6 m
150 kPaG−60 kPaG15.33 m−6.13 m約21.8 m

3行目に注目すると、吐出圧力は1行目と同じ150 kPaGですが、吸込圧力が−60 kPaGまで低下しているため、全揚程は21.8 mになっています。ポンプは仕様どおりの仕事をしていて、吸込側が異常に抵抗を持っている状態です。

ここで重要なのは、吐出圧力だけを見て判断しないことです。吸込側の連成計を読まないまま「圧力が出ているから本体は正常」と判断すると、ストレーナの目詰まりを見逃します。

3-2 吸込側の連成計の読み方

連成計(負圧まで測定できる圧力計)が設置されていない設備は少なくありません。設置されていない場合は、取付座の追加を検討する価値があります。吸込側の圧力は、トラブル時の情報量が最も多い測定点です。

読み値の目安は次のとおりです。

吸込圧力の読み想定される状態
押込み(正圧)で設計どおり吸込側は健全
設計より 10〜20 kPa 低いストレーナの初期目詰まり、吸込弁の開度不足
−40 kPa より低い(吸上げ設備)吸込配管の閉塞、フート弁の目詰まり、液面低下
針が細かく振れる気泡の混入、キャビテーションの発生
針が動かない配管内が空、または計器の詰まり

3-3 【試算②】運転電流から流量を推定する

電流値は、クランプメーターがあれば工具なしで測れる情報です。うず巻ポンプは、吐出し量が減るほど軸動力も減る特性を持ちます(比速度の小さい機種の場合)。したがって、電流値は流量の代理指標として使えます。

3.7 kW・4極・200 V のかご形誘導電動機を例に、定格電流を概算します。効率0.855、力率0.81とすると、I=P3Vηcosϕ=3,7001.732×200×0.855×0.8115.4 AI = \frac{P}{\sqrt{3} \cdot V \cdot \eta \cdot \cos\phi} = \frac{3,700}{1.732 \times 200 \times 0.855 \times 0.81} \fallingdotseq 15.4\ \text{A}I=3​⋅V⋅η⋅cosϕP​=1.732×200×0.855×0.813,700​≒15.4 A

無負荷時には励磁電流が残るため、電流はゼロにはなりません。定格の35%程度と仮定し、負荷電流分を軸動力に比例させると、次の関係が得られます。

軸動力(定格比)概算電流定格比対応する運転状態
60%10.2 A66%締切運転(吐出弁全閉)
100%15.4 A100%定格点
125%18.8 A122%過流量(吐出弁全開・揚程不足)
(空運転に近い)5.4 A35%送液していない

現場での判定は次のように使います。

  • 電流が定格の40%前後まで落ちている:ポンプが送液していない状態。空運転・エア噛み・呼び水抜けの可能性が高い
  • 電流が定格の60〜70%:流量は出ているが少ない。締切に近い運転点、または系統抵抗の増加
  • 電流が定格を超えている:過流量、あるいは異物の噛み込み・軸受の固着といった機械的な抵抗

最後の項目は電気的なトラブルと重なる領域です。電流値が定格を超えたまま戻らない場合は、ポンプ側ではなく電動機側(欠相、電圧不平衡、絶縁低下)の可能性も並行して調べます。

3-4 回転方向の確認

据付直後や、盤の改修・電源の切り替えを行った直後に流量が出ない場合、電動機の相順が入れ替わっている可能性があります。うず巻ポンプは逆回転でも多少の吐出しはしますが、羽根車の出口角が逆向きに働くため、全揚程は大きく低下します。

確認方法は、カップリングカバーの窓、または電動機のファンカバーから回転方向の矢印と実際の回転を照合することです。瞬時起動(インチング)で判定します。目視が難しい場合は、締切揚程を測る方法があります。吐出弁を閉じたときの圧力が仕様書の締切揚程と大きく食い違っていれば、回転方向か回転速度に問題があります。

3-5 【試算③】回転速度の影響(相似則)

回転速度が変わったときの性能変化は、相似則で求まります。JIS B 8301:2018 の 6.1.1 でも、規定回転速度への換算式として同じ関係が規定されています。

  • 吐出し量:回転速度の1乗に比例
  • 全揚程:回転速度の2乗に比例
  • 軸動力:回転速度の3乗に比例

吐出し量 10 m³/h、全揚程 20 m のポンプを例にとります。

条件回転数比流量全揚程軸動力
60 Hz 仕様を 50 Hz 電源で運転0.8338.3 m³/h(83%)13.9 m(69%)58%
仕様どおり1.00010.0 m³/h20.0 m100%
50 Hz 仕様を 60 Hz 電源で運転1.20012.0 m³/h(120%)28.8 m(144%)173%

ここで実揚程が18 mの系統を考えます。60 Hz運転であれば締切揚程20 mが実揚程18 mを上回るため送水できますが、50 Hzで運転すると締切揚程は13.9 mとなり、実揚程18 mを超えられません。流量はゼロになります。「流量が83%に落ちる」ではなく「まったく出なくなる」という結果になる点が、この問題の分かりにくさです。

インバータ駆動の設備では、周波数指令が何らかの理由で下がっているケースも同じ現象を起こします。運転周波数の実測値を確認します。


4. 吸込側の問題:NPSHで考える

4-1 NPSHとは何を表す量か

吸込側のトラブルは、最終的にNPSH(有効吸込ヘッド)の不足として整理できます。JIS B 8301:2018 の表1では、NPSHを次のように定義しています。

飽和蒸気圧に相当するヘッドを減じた,NPSH基準面での絶対圧で表示した吸込全ヘッド。

出典:JIS B 8301:2018 遠心ポンプ,斜流ポンプ及び軸流ポンプ-試験方法

平たく言えば、ポンプの入口で液体が持っている圧力が、その温度での沸騰圧力よりどれだけ高いかを水柱の高さで表した量です。これが不足すると、羽根車の入口で液体が局所的に沸騰し、キャビテーションが発生します。

一方、ポンプ側が要求する値が必要有効吸込ヘッド(NPSHR)です。同規格では、性能曲線の基準として NPSH3 を用いることが規定されています。NPSH3 は、1段目の全揚程が3%低下するときのNPSHとして定義されます(同規格 3.2 表1、5.8.2)。

ここに注意点があります。NPSH3 は「3%低下する点」であって、「そこまではキャビテーションが起きていない点」ではありません。カタログのNPSHRぎりぎりで運転すると、すでに羽根車入口では気泡が発生しています。実務では余裕を持たせた設計を行います。

キャビテーションの発生機構と壊食の進み方については、【プラント設計の基礎】ポンプが壊れる!キャビテーションの原因とその対策 で詳しく扱われています。

4-2 【試算④】NPSHa を実際に計算する

吸上げ据付のポンプで、NPSHa を計算します。

条件

項目
吸込配管50A SGP(内径 52.9 mm)
流量10 m³/h
液体水 20℃(密度 998.2 kg/m³、飽和蒸気圧 2.34 kPaA)
吸上げ高さ(リフト)3.0 m
吸込直管長8 m
局部抵抗フート弁 K=1.5、ストレーナ K=2.0、90°エルボ K=0.75×2
管摩擦係数λ=0.030
液面上の圧力大気圧 101.3 kPaA

流速v=QA=10/3600π×0.05292/4=1.264 m/sv = \frac{Q}{A} = \frac{10 / 3600}{\pi \times 0.0529^2 / 4} = 1.264\ \text{m/s}v=AQ​=π×0.05292/410/3600​=1.264 m/s

吸込配管の損失

直管:λ(L/D)·v²/2g = 0.030 × (8 / 0.0529) × 1.264² / (2×9.8) = 0.370 m 局部:ΣK·v²/2g = 5.0 × 1.264² / (2×9.8) = 0.408 m 合計:0.777 m(= 7.60 kPa)

NPSHaNPSHa=papvρgHlifthf=(101.32.34)×103998.2×9.83.00.777=6.34 mNPSH_a = \frac{p_a – p_v}{\rho g} – H_{\text{lift}} – h_f = \frac{(101.3 – 2.34) \times 10^3}{998.2 \times 9.8} – 3.0 – 0.777 = 6.34\ \text{m}NPSHa​=ρgpa​−pv​​−Hlift​−hf​=998.2×9.8(101.3−2.34)×103​−3.0−0.777=6.34 m

このポンプの NPSHR が 3.0 m であれば、余裕は 3.34 m あります。この状態で吸込側のトラブルが発生している場合、計算に含めていない要因(配管内の空気溜まり、フート弁の異常、液面の低下)が原因として残ります。

なお、参照した社内のNPSH計算書では、吸込ノズルでの有効圧力を kPa で積み上げてから水柱に換算する手順を採っていました。上式と計算の中身は同じで、途中の単位が違うだけです。計算書のフォーマットに合わせるのであれば、「利用可能な圧力(液面上圧力 − 蒸気圧)+ 静的ヘッド − 圧力損失合計 = 吸込ノズルにおける有効圧力」という並びになります。

4-3 【試算⑤】液温の上昇がNPSHaに与える影響

同じ据付条件のまま、液温だけを変えたときの NPSHa を計算します。

液温飽和蒸気圧密度NPSHaNPSHR=3.0 m に対する余裕
20℃2.34 kPaA998.2 kg/m³6.34 m3.34 m
40℃7.38 kPaA992.2 kg/m³5.88 m2.88 m
60℃19.94 kPaA983.2 kg/m³4.67 m1.67 m
80℃47.39 kPaA971.8 kg/m³1.88 m−1.12 m
90℃70.14 kPaA965.3 kg/m³−0.48 m成立しない

20℃から80℃へ液温が上がると、NPSHa は 6.34 m から 1.88 m へ、およそ70%減少します。90℃では負の値となり、この据付条件では吸上げそのものが成立しません。押込み据付に変更する以外に方法がありません。

この表が示すのは、夏場や生産条件の変更で液温が上がったとき、配管も機器も何ひとつ変えていないのにポンプが吸わなくなるという事象が計算上起こりうるということです。「先週まで動いていた」というトラブルで、液温の変化を確認していないケースは少なくありません。CIP洗浄液の温水切り替え、冷却水の季節変動、返送ラインの合流位置の変更などが、実務での引き金になります。

4-4 【試算⑥】吸込流速とNPSHaの関係

吸込配管の流速を変えて、同じ据付での NPSHa を計算します。液温は20℃固定です。

吸込流速吸込配管損失NPSHaNPSHR=3.0 m に対する余裕
1.0 m/s0.49 m6.63 m+3.63 m
1.26 m/s(試算④の条件)0.78 m6.34 m+3.34 m
2.0 m/s1.95 m5.17 m+2.17 m
3.0 m/s4.38 m2.74 m−0.26 m

流速3.0 m/sでは余裕が負になります。損失が流速の2乗に比例するためです。

吸込配管の設計流速を 1 m/s 前後に抑えるという実務上の目安は、ここから来ています。吐出側であれば 2〜3 m/s は普通に使う流速ですが、吸込側で同じ流速を選ぶと NPSH の余裕を失います。配管口径の決め方については 【プラント設計の基礎】配管口径・配管サイズを決定する”超”簡単な方法 を参照してください。

トラブル対応の観点では、吸込配管を細い口径で更新した直後から吸わなくなったというケースがこれに該当します。同じ呼び径でも、SGPからSUS304 Sch10Sに変えると内径が変わる点にも注意します。

4-5 呼び径ごとの「流速1 m/s の流量」

吸込側の流速が適正範囲にあるかを現場で判断するための対応表です。呼び径ごとの内径から算出しています。

呼び径SGP 内径1 m/s のときの流量
25A27.6 mm2.15 m³/h
32A35.7 mm3.60 m³/h
40A41.6 mm4.89 m³/h
50A52.9 mm7.91 m³/h
65A67.9 mm13.04 m³/h
80A80.7 mm18.41 m³/h
100A105.3 mm31.35 m³/h
125A130.8 mm48.37 m³/h
150A155.2 mm68.10 m³/h
200A204.7 mm118.48 m³/h
250A254.2 mm182.70 m³/h
300A304.7 mm262.50 m³/h

50A の吸込配管で 16 m³/h を流している場合、流速は 16 ÷ 7.91 ≒ 2.0 m/s となります。試算⑥の表に照らすと、NPSH の余裕が設計時より2割以上減っている状態にあたります。

4-6 【試算⑦】呼び水抜けとエア溜まり

吸上げ据付のポンプで最も多い「まったく出ない」の原因が、呼び水の抜けです。原因はフート弁(吸込側の逆止弁)のシート漏れで、停止中に吸込配管の水が水槽側に落ちていきます。

判定方法は次のとおりです。

  1. ポンプ停止後、呼び水口から水を満たす
  2. そのまま5〜10分放置する
  3. 再度呼び水口を開けて、水位が下がっているかを確認する

水位が下がっていればフート弁のシート漏れです。原因は異物の噛み込み、またはシート面の摩耗になります。

もう一つ見落としやすいのが、吸込配管の途中にある空気溜まりです。吸込配管はポンプに向かって上り勾配(1/100 程度)を付けるのが原則ですが、機器の更新や配管の取り回し変更で一部が逆勾配になっていると、その頂部に空気が滞留します。

この空気柱は、そのまま NPSHa の低下として効きます。頂部に 0.5 m の空気柱ができれば、NPSHa は 0.5 m 下がります。試算④の条件(余裕3.34 m)であれば直ちに止まりはしませんが、液温が60℃であれば余裕は1.67 mしかなく、空気柱が 1.7 m 相当になった時点で吸わなくなります。

さらに、うず巻ポンプは体積比で数%の気泡混入でも全揚程が急落します。羽根車の内部で気相と液相が分離し、羽根の間に気相が居座って流路を塞ぐためです。「少しだけ空気を噛んでいるが送れてはいる」という中間状態が存在しにくく、ある点を超えると一気に送水できなくなります。症状Cの「出たり止まったりする」は、この境界付近で運転している状態です。

4-7 ストレーナと液面

ストレーナの目詰まりは吸込圧力の低下として現れます。差圧計が付いていれば読むだけで判定できますが、付いていない設備では連成計の読みの変化を追います。試算④の条件では、余裕3.34 mは圧力に換算して 32.7 kPa です。ストレーナの目詰まりによる圧損増加がこの値を超えた時点でキャビテーションが始まります。液温60℃であれば、余裕は 16.1 kPa まで縮みます。

液面については、吸込水槽の最低水位とポンプ中心の関係を図面で確認します。生産の都合で水槽の運用水位を下げた場合、そのぶんリフトが増えて NPSHa が減ります。運用変更が設備の制約を超えていないかを確認する場面です。


5. ポンプ本体の問題

5-1 【試算⑧】ウェアリング摩耗による内部循環

吸込側に異常がなく、運転電流も定格どおりで、それでも流量が不足している場合があります。この組み合わせで想定されるのが、ポンプ内部の摩耗です。

うず巻ポンプは、羽根車の出口から出た高圧の液体が入口側へ戻らないよう、羽根車とケーシングの間にウェアリング(ライナリング)を設けています。ここが摩耗してすきまが広がると、吐出し側から吸込み側へ戻る内部循環量が増えます。羽根車は仕事をしているので軸動力は落ちませんが、外部に出る流量だけが減ります。

環状すきまを通る漏れ量を、入口・出口損失 1.5、すきま部の管摩擦係数 0.05 とする概算モデルで計算します。ウェアリング径 150 mm、軸長 15 mm、リング前後の差圧を全揚程の60%(147 kPa)と仮定します。対象は吐出し量 100 m³/h、全揚程 25 m のポンプです。

片側すきま漏れ流速内部循環量吐出し量に対する比外部に出る量
0.25 mm(設計値)9.90 m/s4.20 m³/h4.2%95.8 m³/h
0.40 mm10.98 m/s7.45 m³/h7.5%92.5 m³/h
0.50 mm11.43 m/s9.70 m³/h9.7%90.3 m³/h
0.75 mm12.12 m/s15.43 m³/h15.4%84.6 m³/h
1.00 mm12.52 m/s21.24 m³/h21.2%78.8 m³/h

すきまが設計値の 0.25 mm から 0.75 mm へ、つまり3倍に広がると、外部に出る流量は 95.8 m³/h から 84.6 m³/h へ 11.7% 減少します。これは筆者による概算モデルであり、JIS等に規定された値ではありませんが、傾向とオーダーの把握には使えます。

現場で押さえておくべき点は3つです。

  • すきまの拡大は目視では分かりにくい。0.25 mm と 0.75 mm の差は、分解してすきまゲージを当てて初めて判明する
  • 流量が減っても軸動力(電流)はほとんど変わらない。「電流は正常なのに流量が出ない」がこのパターンの特徴
  • 摩耗は一度に進まない。年単位の記録があれば、性能の低下曲線から交換時期を予測できる

摩耗の進行要因には、異物の混入、キャビテーションによる壊食、そして芯出し不良に伴う軸の振れ回りがあります。据付時の芯出し精度が悪いと、羽根車が偏心して回るためウェアリングの片当たりが起こり、摩耗が局所的に進みます。流量低下の再発が早い設備では、芯出し記録を確認します。

5-2 羽根車の閉塞と異物噛み込み

排水系や原料系のポンプでは、羽根車の流路に異物が詰まることがあります。この場合は流量が減ると同時に、羽根車のバランスが崩れるため振動が出ます。電流値は詰まり方によって上下どちらにも動きます。

判定材料は振動です。回転周波数の1倍成分が急に増えていれば、質量アンバランスの発生を示します。配管側に振動が伝わっている場合の対処は 【プラント設計の基礎】機器と配管の振動対策 が参考になります。

5-3 軸封部からの吸い込み

グランドパッキンやメカニカルシールの部分が負圧になる据付(吸上げ据付)では、軸封部から空気を吸い込む場合があります。パッキンを締め込んでも水漏れが止まらない、あるいは運転中に軸封部から気泡の混ざった水が出る場合は、この経路からの空気吸込みの可能性が高くなります。

このケースでは、ポンプを停止すると軸封部から水がにじみ、運転すると乾く、という逆転した挙動を示すことがあります。グランドパッキンの場合は、締め込みではなく封水(クエンチ)の追加で解決する場合があります。


6. 吐出側・系統側の問題

吸込側もポンプ本体も健全なのに流量が足りない場合、系統側の抵抗が設計時より増えています。

確認項目確認方法典型的な原因
弁の開度現物のハンドル位置とステム露出量を確認全開のつもりで中間開度、弁棒の折損
逆止弁分解、または前後差圧の測定弁体の固着、スイング弁のヒンジピン摩耗
配管のスケール超音波厚さ計、または内視鏡炭酸カルシウムの析出、スライムの付着
系統の切り替え弁の開閉表と現物の照合別系統に送水している、バイパスが開いている
熱交換器・フィルタ前後差圧の測定伝熱面の汚れ、エレメントの目詰まり

配管内のスケール付着は、内径が減ることで抵抗が急増します。損失は内径の5乗に反比例するため、内径が1割減れば損失は約1.7倍になります。冷却水系統でこの現象が起きている場合、水管理側の問題と重なっている可能性があります。

弁の開度については、電動弁や空気作動弁の場合、指令値と実開度が一致しているかを現物で確認します。ポジショナのゼロ点ずれで、全開指令に対して実開度が70%程度に留まっていた、という事例は珍しくありません。

急に系統を締め切ったときのウォーターハンマーとの関連は 【プラント設計の基礎】ウォーターハンマー を参照してください。


7. 切り分け表

ここまでの内容を、測定値の組み合わせから原因を絞る形にまとめます。

吐出圧力吸込圧力運転電流想定される原因次にやること
上がらない針が動かない定格の35〜45%呼び水抜け、空運転停止。呼び水を入れ、フート弁の保持試験
上がらない大きく負圧定格の35〜45%吸込配管の閉塞、フート弁の完全詰まり停止。吸込配管とストレーナの点検
出るが低い正常定格の60〜70%回転速度の不足、逆回転運転周波数と回転方向の確認
出るが低い正常定格どおりウェアリング摩耗、羽根車の摩耗性能記録との比較。分解点検の計画
正常やや低い定格の60〜70%ストレーナの初期目詰まり差圧の測定、清掃
針が振れる針が振れる変動するキャビテーション、エア混入液温と液面の確認、NPSHaの再計算
高い正常定格の60〜70%吐出側の閉塞、弁の固着吐出弁・逆止弁の確認
正常正常定格超過過流量、異物噛み込み、軸受不良流量測定、振動測定

この表は原因を確定するものではなく、次に調べる場所を決めるためのものです。表のどの行にも該当しない場合は、測定値そのものの妥当性を確認します。圧力計の導圧管が詰まっている、クランプメーターの測定相が誤っている、といった計器側の問題は一定の頻度で発生します。


8. そもそも仕様どおりか:JIS B 8301 の許容幅

流量が「足りない」と判断する前に、どこからが不足なのかを確認しておく必要があります。ポンプの性能には規格上の許容幅があります。

JIS B 8301:2018 の 4.4.2 では、軸動力が 10 kW 未満のポンプについて、受渡当事者間で特に協定がない場合の許容幅を次のように定めています。

  • 吐出し量:τQ = ±10%
  • 全揚程:τH = ±8%

保証点が吐出し量 10 m³/h、全揚程 20 m のポンプであれば、次の範囲は規格上の合格範囲です。

項目保証点合格範囲
全揚程20.0 m18.4 〜 21.6 m
吐出し量10.0 m³/h9.0 〜 11.0 m³/h

実測が 18.4 m であっても、これは規格の範囲内です。18.0 m を切って初めて、仕様外という議論が始まります。新設ポンプの試運転で「カタログより少し低い」という話が出たとき、この幅を知っているかどうかで対応が変わります。

なお、同規格 4.4.3 では、吐出し量と全揚程のどちらか一方が許容幅に入っていれば合格とする判定方法が規定されています。性能曲線が許容幅を横切るかどうかで判定するため、単純に1点の測定値を比較する方法とは考え方が異なります。

効率についても、軸動力 10 kW 未満のポンプには次の式(27)による許容幅が定められています。τη=10×(1P2,max10)+7\tau_\eta = -10 \times \left(1 – \frac{P_{2,max}}{10}\right) + 7τη​=−10×(1−10P2,max​​)+7

最大軸動力 3.7 kW であれば τη = 0.7%、7.5 kW であれば τη = 4.5% です。小容量機ほど効率の許容幅が厳しくなる形になっています。


9. 再発防止:記録がないと切り分けができない

ここまでの手順は、いずれも「正常時の値」との比較で成り立っています。比較対象がなければ、測定値が異常かどうかを判断できません。

9-1 据付時に記録しておく値

新設・更新の試運転時に、次の値を記録して保管します。

記録項目用途
吐出圧力(定格運転時・締切時)性能低下の基準線
吸込圧力(定格運転時)ストレーナ目詰まりの基準線
運転電流(定格運転時・締切時)流量の代理指標の基準線
液温NPSHa 再計算の入力値
ウェアリングのすきま実測値摩耗量の起点
振動値(水平・垂直・軸方向)機械的劣化の基準線

特に「締切時の吐出圧力」は、分解せずに羽根車の状態を推定できる数少ない値です。締切揚程は羽根車の外径と回転速度でほぼ決まり、系統側の条件に影響されません。年に一度、吐出弁を短時間閉じて記録するだけで、羽根車の摩耗傾向を追えます。ただし、1-2 で示したとおり締切運転は短時間に限ります。圧力計の読みを取る数十秒で十分です。

9-2 計器の取付け

トラブル対応を早くするための投資として、次の3点は効果が大きい項目です。

  1. 吸込側の連成計(測定範囲 −0.1 〜 0.1 MPa)
  2. ストレーナ前後の差圧計、または簡易的な圧力計2個
  3. 盤内の電流計、あるいは電流値のトレンド記録

いずれも数万円の部品で、トラブル1回の停止時間と比べれば回収は早くなります。特に吸込側の連成計は、本記事の切り分け表の半分以上の行で必要になる情報を与えます。

9-3 分解前に確認する

分解後に原因が特定できなかった場合、再組立てまでの時間が損失となります。分解に着手する前に、次の項目を完了させておきます。

  • 吸込側の3点(呼び水の保持、ストレーナ、液面)を確認した
  • 回転方向と運転周波数を確認した
  • 吐出側の弁と逆止弁を確認した
  • 液温を測り、NPSHa を再計算した
  • 電流値を測り、定格比を出した

この5項目で原因が特定できない場合に限り、ポンプ本体の分解に進みます。


10. まとめ

ポンプの流量不足は、測定値を順番に確認することで、トラブル箇所を効率的に特定できます。

  • 最初に運転継続の可否を判断する。電流が定格の40%前後の場合は送液していない状態にあたり、停止が必要となる。締切運転による水温上昇は分単位で進行する
  • 症状を「まったく出ない」「量が足りない」「出たり止まったりする」の3つに分類する
  • 吐出圧力計・吸込側の連成計・運転電流の3点を測定する。吐出圧力のみでは吸込側の異常を検出できない
  • 吸込側の問題は NPSHa の計算で確認する。液温20℃→80℃で NPSHa は 6.34 m → 1.88 m となり、約70%減少する
  • 吸込流速3.0 m/s では NPSHa の余裕が負の値となる。吸込側の設計流速を 1 m/s 前後に抑える根拠がこの点にある
  • 電流が定格どおりで流量だけ低下している場合、ウェアリング摩耗の可能性が高い。すきまが0.25 mm→0.75 mm で吐出し量が約11.7%減少する計算になる
  • 流量不足と判断する前に JIS B 8301 の許容幅を確認する。軸動力10 kW未満では全揚程 ±8%、吐出し量 ±10% が規格上の合格範囲
  • 据付時に締切圧力・吸込圧力・電流・液温・ウェアリングすきまを記録しておくことで、次回のトラブル時に比較対象として使用できる

吸込側の3点確認、回転方向と運転周波数、吐出側の弁。この順序で確認することにより、分解整備の要否を現場で判断できます。


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参考書籍

現場でポンプのトラブル対応を担当する方に向けて、実務で参照しやすい書籍を挙げます。

  1. 『トコトンやさしいポンプの本』(日刊工業新聞社/今日からモノ知りシリーズ) — 見開き完結の構成で、保全担当者が最初に読む一冊に向いています。
  2. 『流体工学(機械工学入門講座)』(森北出版) — 損失計算の根拠になる管摩擦と局部抵抗の扱いを、式の導出から確認できます。
  3. 『JISハンドブック ポンプ』(日本規格協会) — JIS B 8301 をはじめとするポンプ関連規格を収録。許容幅の原文を確認する必要がある場合に参照します。

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