【プラント設計の基礎】ポンプが壊れる!キャビテーションの原因とその対策!

キャビテーションとは液体の圧力が急激に低下し、その液体の飽和蒸気圧に達すると液体が瞬時に気体へと変化して気泡が発生、その後の圧力回復に伴って気泡が崩壊する現象です。ポンプや配管設計においてこの現象は大きな問題を引き起こす場合があります。

気泡が崩壊する際非常に高いエネルギーが発生し、金属表面を損傷させることがあります。特にポンプの羽根車や配管の内壁に損傷を与え、長期的には機器の寿命を縮める原因となります。

キャビテーションは、配管、バルブ、オリフィスなどの圧力損失によって液体がその温度における飽和蒸気圧を下回ることで発生します。具体的には、ポンプ内部での圧力が低下し液体がフラッシュ現象(急激な沸騰)を起こして気泡が発生します。

その後、ポンプの羽根車で圧力が再度上昇すると気泡が崩壊し羽根車表面に衝撃を与えます。この一連の現象がポンプや配管に与えるダメージは大きく、配管設計者はキャビテーションの発生を防ぐためにさまざまな対策を講じる必要があります。

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目次

キャビテーションが発生するメカニズム

ポンプでキャビテーションが発生する具体的なメカニズムを解説します。ポンプ内の圧力が低下する主な原因は、吸込口付近での圧力損失です。

ポンプ内の液体が吸込口や羽根車を通過する際に圧力が低下し、その圧力が液体の飽和蒸気圧を下回るとキャビテーションが発生します。このとき、液体中に発生した気泡は、羽根車で圧力が上昇すると急激に崩壊します。

Michael Smith Engineers(https://www.michael-smith-engineers.co.uk/resources/useful-info/pump-cavitation)より

上図より解説すると

ポンプによるキャビテーション

a:ポンプ入り口配管では圧力がかかっていますが、ポンプ吸い込み口に向けて流速の増加から徐々に下がってきます。

b:インペラの部分で流速が上がり、圧力が飽和蒸気圧力より下がります。ここで液体が沸騰し細かい泡が発生します。

c:インペラの出口付近で圧力が再度上昇し泡が破壊され、それによりケーシングやインペラがダメージを受けます。

d:ポンプ出口側に行くことで圧力が再度上昇します。

崩壊した気泡は非常に高いエネルギーを持ち、その影響でポンプ内の金属表面が損傷を受けます。このダメージは「エロージョン」と呼ばれる現象で、長期間にわたるキャビテーションが繰り返されることでポンプの羽根車が損傷し送液不可になる時があります。

Michael Smith Engineers(https://www.michael-smith-engineers.co.uk/resources/useful-info/pump-cavitation)より

エロージョンとは?

エロージョン(浸食)は、物体の表面が摩耗したり削り取られる現象を指します。プラント機器においては液体が高速で流れる際に、表面に衝撃や摩擦が生じこれが繰り返されることでエロージョンが起こります。

特にポンプの吸い込み口で発生するキャビテーションはエロージョンの主な原因の一つです。それにより、以下のような損傷が引き起こされます。

キャビテーションによる損傷

1. 表面のピッティング(小さな穴): 気泡がインペラ表面で急激に崩壊する際に、その局所的な衝撃が金属表面に小さな穴を作ります。この現象が繰り返されることで羽根車が次第に損傷します。

2. エロージョンの進行: キャビテーションによる衝撃が続くと、インペラの金属表面が徐々に削られ、形状が変わったり性能が低下します。

3. 効率低下と故障: インペラが損傷するとポンプの効率が著しく低下し、最終的には修理や交換が必要な状態に至ることがあります。

エロージョンとキャビテーションは密接に関連しており、ポンプの寿命や性能に悪影響を及ぼすため設計段階からキャビテーションを防ぐ対策が重要です。たとえば吸い込み圧力を適切に保つ、ポンプの設計を最適化するなどが効果的です。

エロージョンとコロージョンの違いは?

エロージョンとコロージョンはどちらも材料の劣化を引き起こしますが、原因が異なります。

  • エロージョン:流体の流れによって配管や機器の表面が物理的に削られる現象です。特に高速で移動する固体粒子や液体が表面に衝突することで進行します。
  • コロージョン:化学的な反応、特に酸化や腐食によって材料が劣化する現象です。

プラント配管設計では、エロージョンが高流速や不均一な流れによって促進され、特にポンプの入り口で発生するキャビテーションが原因となることが多いです。キャビテーションにより気泡の崩壊時に高圧が生じ、局所的なエロージョンが発生し、同時にコロージョンも進行しやすくなります。

キャビテーションを防ぐための設計指針

キャビテーションの発生を防ぐためには、配管設計やポンプ選定において以下のようなポイントに注意する必要があります。

その一つがNPSHです。

NPSH(Net Positive Suction Head)とは?

ポンプメーカーは、キャビテーションを防ぐために「NPSH」というパラメータを提供します。このNPSH(吸込側正味揚程)は、ポンプがキャビテーションを起こさずに正常に作動するために必要な最低限の吸込圧力を表します。具体的には、ポンプ内部で失われるエネルギー(水頭損失)と羽根車に流入する際の速度水頭を合わせた値で表されます。

NPSHには「NPSHr(Required)」と「NPSHa(Available)」という2つの概念があります。NPSHrはメーカーが提示する最低限必要なNPSHで、ポンプがキャビテーションを起こさずに動作するために必要な条件です。一方、NPSHaは実際の配管設計において得られるNPSHを指し、ポンプが設置される場所や配管設計の条件によって決まります。

配管設計の際は、NPSHaがNPSHrを上回ることを確認する必要があります。一般的には、NPSHAがNPSHRを少なくとも0.6メートル以上上回ることが推奨されています。これにより、キャビテーションのリスクを低減し、ポンプの安全な運転が確保されます。

配管技術用語辞典より

ポンプの配置とNPSHaへの影響

ポンプの配置はNPSHaに大きく影響します。一般的にポンプを水面の上に設置する場合と、水面の下に設置する場合でNPSHaが変わります。

ポンプを水槽の上に設置する場合

ポンプを水槽の水面より上に置く場合、ポンプの吸込側にかかる圧力は水面の大気圧よりも低くなります。これは静水圧がHs(ポンプの吸込口が水面からの高さ)分だけ低下するためです。さらに、配管内での損失水頭も考慮する必要があります。このような設置条件ではポンプのNPSHaが低くなるため、キャビテーションのリスクが高まります。

ポンプを水槽の下に設置する場合

一方、ポンプを水面の下に設置する場合ポンプには水面の静水圧が加わり、大気圧以上の圧力がかかります。この結果NPSHaは大きくなり、キャビテーションのリスクが低減されます。特に高温の流体を扱う場合や、配管内の圧力損失が大きい場合には、ポンプを水面の下に設置する方が有利です。

水温と飽和蒸気圧の関係

キャビテーションのリスクは液体の温度にも大きく影響されます。水温が上昇すると液体の飽和蒸気圧も上がり、キャビテーションが発生しやすくなります。

例えば、水温が常温に近い場合は、-0.15kPaG程度まで真空を引かないと沸騰しません、よって大気圧下では比較的安全に運転できます。しかし、水温が80°Cに達すると、-0.05kPaG程度の真空度で沸騰します。

このような状況ではポンプの設置位置、配管損失の低減によりNPSHaの確保が非常に重要です。

配管設計におけるキャビテーション対策

キャビテーションを防ぐためには、配管設計において以下のような対策を講じることが効果的です。

配管設計におけるキャビテーション対策
  1. ポンプの設置場所の最適化:ポンプを水面の下に設置することでNPSHaを確保し、キャビテーションのリスクを低減できます。
  2. 配管損失の最小化:配管内の圧力損失を減らすために適切な配管径を選定し、不要なバルブやフィッティングを減らすことが重要です。必要であれば配管口径を太くして流速を下げ、圧力損失を低減させる必要があります。
  3. 水温の管理:流体の温度が高くなるほど飽和蒸気圧が上がるため、高温流体を扱う場合は特にNPSHに注意する必要があります。
  4. 適切なポンプの選定:ポンプのNPSHrと実際のNPSHaの差が十分に取れるようなポンプを選定することが大切です。

配管の圧力損失については下の記事も参考にしてください。

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まとめ

キャビテーションは、液体の圧力が急激に低下し飽和蒸気圧に達することで発生する現象です。液体が気体に変化して気泡が発生し、圧力が回復すると気泡が崩壊し金属表面に衝撃を与えることがあります。この現象は特にポンプや配管において問題となり、機器の寿命を縮める原因となります。気泡崩壊時のエネルギーは、ポンプの羽根車や配管内壁にダメージを与え、ピッティングやエロージョン(浸食)が進行します。

キャビテーションはポンプ内部の圧力低下により発生します。特にポンプの吸込口や羽根車付近で圧力が低くなると液体が気泡を形成し、その後圧力が上昇することで気泡が崩壊します。これにより、ポンプや配管の効率低下や故障を引き起こすため、キャビテーション対策が重要です。

キャビテーションを防ぐためには、NPSHを確保することが鍵です。NPSHにはNPSHr(最低限必要なNPSH)とNPSHa(実際に得られるNPSH)があり、設計上NPSHaがNPSHrを上回るようにする必要があります。ポンプの設置位置や水温、配管損失の最小化などの対策をしてキャビテーションを未然に防止しましょう。

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