5SとIoTで実現する業務改善と効率化

「5Sはもうやり尽くした」

「形骸化している」

「毎朝の掃除くらいしか残っていない」

そう感じている方は少なくありません。でも、ちょっと待ってください。改善の余地がないのではなく、”見えていない”だけかもしれません。

IoTを組み合わせれば、5Sは手作業の維持活動から、データで回るスマートな仕組みに進化します。

たとえば

  • 散らかりやすい場所にビーコンや人感センサーを置けば、ムダな動線や置きっぱなしの発生ポイントが数値で可視化されます。
  • 工具や台車にタグを付ければ所在が即時に分かり、「元の位置に戻す」をアラートで支援。
  • 温湿度・振動・稼働音のセンサーは“汚れやすい・壊れやすい”条件を教えてくれるので、清掃や点検の優先度を自動で組み替えられます。
  • ダッシュボードで整理・整頓・清掃の実施率や異常検知回数を日々モニタリング

これらの活動で形だけのチェックから、効果が見える運用へ。5分の掃除を“投資”に変えるのが、IoT活用の5Sです。

目次

5Sとは?ただの掃除・整理整頓ではない

5Sとは誰でも安全に・迷わず・ムダなく働ける職場をつくるための基本の型です。以下の5つの実践を通じて、現場力の土台を整えます。

5Sとは?
  • 整理:要るモノ・要らないモノを分けて、要らないモノは捨てる
    狙い: スペースの確保、探す時間の削減、リスク源の排除。
    例: 1年以上使っていない治具を処分/共用棚を用途別に区分。
  • 整頓:必要なモノを、すぐ使えるように配置する
    狙い: 取り違え防止、動作・動線の短縮、属人化の解消。
    例: 影絵管理(ツールの輪郭表示)/定位置・定量・定方向のルール化。
  • 清掃:常にキレイにして、異常を発見しやすくする
    狙い: 早期異常検知、設備停止の予防、品質不良の未然防止。
    例: 日常点検とセットの清掃チェックリスト/油漏れマークの可視化。
  • 清潔:上記3つを維持する状態
    狙い: バラつきの抑制、再汚染の防止、監査・引継ぎの容易化。
    例: 5S標準書・写真基準/色分け・ラベル統一。
  • 躾:ルールを守る・習慣化する
    狙い: 継続と自律、形骸化の防止、職場文化の醸成。
    例: 朝礼での5Sワンポイント共有/是正のPDCAと表彰制度。

5Sは“見た目をキレイにする活動”にとどまらず

  • 安全性の向上(災害・ヒヤリ削減)
  • 作業効率の向上(探索・移動のムダ削減)
  • 品質の安定(不良・手戻り低減)

に直結します。結果として、リードタイム短縮・在庫圧縮・設備稼働率向上などの経営指標にも効いてきます。
さらに、標準化と見える化が進むことで、IoTやデジタル化との親和性も高まり、データにもとづく継続的改善へと発展させやすくなります。

IoT技術が5Sにどう役立つのか?

IoT(Internet of Things、モノのインターネット)とは?

IoTとは?

あらゆる「モノ」をインターネットにつなぎ、情報を収集・共有・活用できるようにする技術のこと

工場の生産設備やロボット、さらには工具や台車といった小さなアイテムに至るまで、センサーや通信機能を組み込むことで、リアルタイムに状態を把握し、必要なアクションにつなげられます。

「IoT」というと、「機械の稼働状況を遠隔でモニターする」「異常振動や温度上昇を検知して故障予兆をつかむ」といった高度で専門的な応用を思い浮かべがちですが、それだけではありません。実は、もっと身近な日常業務、例えば5S活動のような基本改善にも十分に活用できるのです。

たとえば、工具や備品にRFIDタグを付けて「どこにあるか」を一目で分かるようにしたり、清掃が必要な場所をセンサーで自動検知して作業者に通知したりする仕組みは、IoTの典型的な使い方です。こうした仕掛けを取り入れることで、5Sは「人の意識頼みの活動」から「データに基づいて継続できる仕組み」へと進化します。つまり、IoTは5Sを形骸化させるどころか、その効果を見える化し、改善を次のステージに引き上げる強力な武器になるのです。

実際に使えるIoTアイテム例
  • RFIDタグ:工具・部品の所在管理
    工具や部品にRFIDタグを付けておけば、読み取り機で「どこにあるか」を即座に確認できます。探す時間をゼロに近づけられるだけでなく、「元の位置に戻す」の徹底や、棚卸作業の効率化にも有効です。
  • 温湿度センサー:クリーンエリアや保管環境の維持
    整理・整頓だけでは管理しきれないのが環境条件。温湿度センサーを設置すれば、クリーンルームや製品保管場所の環境をリアルタイムで把握できます。品質トラブルの予防や、清掃・点検のタイミングを科学的に判断する助けになります。
  • BLEビーコン:作業者の動線可視化
    作業者や台車にビーコンを取り付けて動線をデータ化すると、ムダな移動や滞留が一目で分かります。レイアウト改善や作業手順の見直しに直結し、「整頓」「清潔」のレベルを高める強力なツールです。
  • 人感センサー:使用頻度の見える化
    倉庫や工具棚に人感センサーを設置すれば、どの備品が頻繁に使われ、どれが放置されているかが明確になります。使用頻度の低いモノは「整理」の対象として廃棄やリストラを検討でき、保管スペースの最適化に貢献します。

「IoT×5S」で実現できる業務改善事例

【事例①】工具棚にRFID導入 → 紛失ゼロへ!

現場でありがちな会話といえば、
「ドライバーどこいった?」
「誰が最後に使ってたっけ?」
といった“工具探し問題”です。特に共用工具は持ち出しが多く、戻し忘れや所在不明が発生しがちで、作業効率を下げるだけでなく、管理者にとっても頭の痛い課題でした。

そこで導入されたのが RFIDタグによる工具管理 です。工具ひとつひとつにRFIDタグを取り付け、持ち出しや返却の際に自動的に記録できるようにしました。これにより、「誰が・いつ・どの工具を使ったのか」 がログとして残り、紛失や置き忘れのリスクが大幅に低減しました。

導入効果
  • 工具紛失ゼロ
    持ち出し履歴が残るため、所在不明のまま消えることがなくなり、余計な再購入コストを削減。
  • 工具点検の効率UP
    使用回数や使用者が明確になり、定期点検や交換の優先順位を立てやすくなった。
  • 持ち出しルールの徹底 → 躾(Shitsuke)につながる
    「使ったら必ず返す」というルールを自然と守れる環境が整い、5Sの“習慣化”が加速。

このように、RFIDは単なる在庫管理だけでなく、5S活動の「整理」「整頓」「躾」を強力にサポートするツールとして活用できます。

【事例②】作業エリアに人感センサー → 動線のムダを可視化

現場改善でよく言われる「ムダな動き」。しかし、口で「ムダが多い」と指摘しても、なかなか具体的に改善につながらないものです。
そこで活躍するのが 人感センサー です。

作業エリアにセンサーを設置し、作業者の移動を自動的に記録すると、「どこで」「どのくらい」動いているかが数値として残ります。これにより、“なんとなく歩いている”時間が可視化され、無意識に繰り返されていたムダな動線を客観的に捉えられるようになりました。

導入効果
  • 歩行時間の数値化
    移動にかかっていた時間がデータで把握できるため、感覚ではなく根拠を持った改善が可能。
  • 備品・資材の再配置
    「よく歩かされている備品」「取りに行く頻度が高い部品」が明確になり、レイアウト改善や配置換えの判断に直結。
  • 工程の見直しにつながる
    動線データを工程分析に活用することで、作業手順の改善や業務フローの再設計にも波及。

結果として、作業者の疲労軽減・生産性向上・安全性アップといった副次効果も得られ、5S活動の「整頓」や「清潔」のレベルが格段に高まりました。

導入のハードルとコツ

IoTというと

「大掛かりでお金がかかりそう」
「専門的なIT知識がないと扱えない」
「導入後の運用が面倒そう」

といった声がよく上がります。特に現場改善活動では、本来の目的よりも“新しい仕組みを維持する大変さ”のほうが不安視されることも少なくありません。

  • コストが高いんじゃ?
    → 専用システム一式を導入するイメージが強いですが、最近は1個数百円~数千円程度のセンサーやタグが多く登場しています。大規模な投資が不要でも、小さく始められます。
  • ITに詳しくないとムリ?
    → 今はBluetooth接続・スマホ連携タイプが主流で、PCやサーバーの設定すら不要な製品も多数。現場担当者だけで使いこなせるケースが増えています。
  • 導入後の管理が大変そう
    → 記録はエクセルに自動出力できる製品もあり、「データを貯める」=「普段の帳票管理に数字を貼るだけ」でも十分な効果が得られます。

導入のコツ

IoTを現場に根付かせるためには、完璧を目指さずに「小さく始める」ことがポイントです。

  • 最初は“困っていること”だけに絞って試験導入
    例:「工具紛失が多い」ならRFID、「温度管理が曖昧」なら温湿度センサー、といった具合に一つの課題にだけ集中。
  • 無線接続できるタイプから始める
    工事不要で置くだけ・貼るだけの製品を選べば、設備改造の手間をかけずにすぐに始められます。
  • エクセルに記録するだけでも十分効果あり
    高度なシステムを導入しなくても、データを数値化して“見える化”するだけで、改善効果が出やすくなります。

5S × IoTがもたらす“見える化”と継続性

5S活動の大きな課題は、「続かない」「効果が見えにくい」という点です。日々の整理・整頓・清掃は習慣になりにくく、「やっているつもり」で終わってしまうケースも少なくありません。

そこでIoTを組み合わせると、活動の成果が数値化・可視化され、改善の効果を誰もが実感できるようになります。

IoTによる定量的な効果

  • 作業時間の短縮
    探す・運ぶ・待つといったムダな時間を削減し、1人あたりの生産性を引き上げる。
  • 在庫の削減
    使用頻度や滞留品をデータで把握できるため、“なんとなく置いてある”在庫を減らせる。
  • 設備稼働率の向上
    センサーで異常や汚れを早期検知でき、突発停止や不良発生を未然に防止。
  • 人の手間の削減
    点検・記録・報告といった作業が自動化され、現場作業者の負担を軽減。
  • 上層部への説得材料にも
    数字で成果を示せるようになると、「掃除してキレイになりました」ではなく、
    「作業時間を○%短縮できました」
    「在庫コストを○万円削減しました」
    「稼働率が○ポイント改善しました」
    といった経営層に響く報告が可能になります。これは、活動の継続と支援を得るうえで非常に重要なポイントです。

まとめ

5Sは、単なる整理整頓や掃除の習慣ではなく、職場を“見える化”し、継続的な改善につなげるための武器です。そこにIoT技術を組み合わせれば、ムダや不具合をデータで捉え、誰もが納得できる形で改善を推進できます。

「うちは古い工場だから…」「デジタル化はウチには難しい…」と諦める必要はありません。
今は数百円から導入できるセンサーやタグも多く、小さく始めて効果を体感できる時代です。

まずは一つ、「現場で困っていること」にIoTを試してみてください。RFIDで工具管理、温湿度センサーで環境監視、人感センサーで動線改善…。そのどれもが、“掃除だけで終わらない5S” を実現するための一歩になります。

きっと、現場の空気がガラッと変わり、5Sが単なるルールから「現場の力を引き出す仕組み」へと進化するはずです。

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